独り浜風漂う砂浜に降り立ち、じっと辺りの様子を伺う。
他に仲間はいない。
皆もう街に戻り眠りに着いているだろう。
独りきりになってしまった。
穏やかな風を嘲笑うかの様な魔獣の咆哮が聞こえる。
理解した。
ここは危険だ。
ふと気付けば背後に物理的とも取れる殺気が存った。
瞬間、振り返って正体を確認するか一気に走り、この狂気とも取れる殺気から逃れるか・・・
その一瞬の迷いが背後の相手に致命的な隙を与えた。
全身を包む殺気が一点に集中する。
攻撃が来る。
避けることは出来ない。
逃げるという選択は出来なくなってしまった。
一瞬でも逃げようと思ってしまった自分に恥じる。
わたしは覚悟を決め、振り返ると同時に攻撃に移った。
渾身の一撃、わたしの最大の攻撃であるツバメ返しを受けて平然とする竜。
わたしは一瞬勝てないかと思った。
わたしの2倍ほどの大きさ。
その凶悪なアギトから吐き出されるブレス。
精神を混乱させられる魔法。
重く、鋭い牙での攻撃。
どれ一つとっても街の近辺にいる通常のモンスターとは非にならない攻撃の数々。
容赦なく浴びせられる攻撃に耐えつつ剣を振るう。
負けては居られない。
こんな所で死ぬわけには行かないのだ。
街には、わたしの帰る場所がある。
わたしを待つ仲間が居る。
たかが竜1匹程度で折れるわたしの信念ではない。
戦士として個人として。
更なる高みを目指すわたしは、いかなる恐怖、強敵にも屈するわけには行かない。
剣を握る手に更に力を込め、魔獣に向かって振り抜く。
激闘の末、なんとかこの魔獣を撃破することに成功した。
自分の身体を点検してみる。
毒を貰い、数箇所の裂傷が痛々しいが、最初に感じた恐怖の割にはダメージは大きくない。
直ちに回復アイテムを使い、身体を癒す。
ダメージよりも気力の消費の方が激しい。
しかし、この魔獣を倒すことでのメリットが大きい。
光るものを集める習性でもあるのか、エンチャント可能な指輪を持っていた。
市価20万〜30万グロッドで取引されるような代物だ。
もしかしたら他の魔獣もこのような高価格アイテムを収集しているかもしれない。
最近資金が乏しくなってきており、ある程度強くもなり、自分の力を試して見たくもある。
回復アイテムを確認。
この魔獣程度ならあと10匹程度は狩れそうだ。
わたしは心を決めた。
遠くからまた咆哮が響く。
わたしは魔獣の鳴き声が聞こえたほうに走る。
強くなるのだ。
確信した。
この魔獣は指輪を持っている。
少ないが、そういった種類の魔物がいることにはいる。
ノカン村の手前にいる黒いバッタの優勢進化系であるディド共。
水生生物が核となったのか、多量の水分を凝固し地上を徘徊する上位ポン系であるポンポン。
他にも探せば居るだろう。
この竜もそうだ。
狩れるだけ狩ることにしよう。
先の魔獣を探していると、亜種なのか。
色の違うものが居た。
この魔獣も指輪を持っている可能性がある。
わたしは果敢に向かうことにした。
先の魔獣とは違い、一撃の重さは平凡な魔物より多少強いくらいだろうか。
きっとこちらの魔獣のほうがランクが低いのだろう。
わたしは、そんな勝手な思い込みから油断していた。
突然身体を炎が包んだのだ。
持続的に魔法の炎が身体を焦がす。
ダメージも馬鹿にならない。
そのうえこの魔獣の僕(しもべ)なのか、巨大な魚の魔物まで襲ってきた。
なんとか炎が消えたかと思えば、今度は視界が無くなった。
暗闇にまでしてくるらしい。
わたしは経験と感で先の魔獣に攻撃を続ける。
暗闇が解除されたと同時にヤツを撃破できた。
あと少しでも手間取っていたら危なかっただろう。
慢心は死を招く。
甘く強烈な誘惑の死。
抗いがたい眠気と、気力の喪失。
大いなる大地に抱かれ、あたかも眠りに着く時の様な快感。
しかしその先に待つのは莫大な経験と名声を失う。
存在がなくならないのはこの世界が不思議な力で常時運転しているかららしい。
しかし死は死。
失う物は大きい。
以前わたしが死んでしまった時には運良く聖職者が通りかかり死後まもなく蘇生を与えてもらった。
しかしこんな場所で、しかも人通りの少ない時間。
蘇生は望めないだろう。
あえてもう一度書こう。
慢心は死を招く。
思った以上にダメージを受けたわたしは、やむなく街に戻ることにした。
また戻ってくる事を心に決めて・・・
余談だが、手に入れた指輪は余すことなく次の狩りへの資金になった。