CASE :4 バリー・バートンの場合

TOP-B.A.S-序章:それぞれの朝

全体的にがっしりとした体つきで、口周りや顎、それにモミアゲにかけての目を覆いたくなるような凄まじいヒゲを蓄えた一人の男が、街の射撃場に現れた。
そのヒゲはギリギリで卑猥(ヒワイ)さを残しつつある意味芸術(アート)の域をはるかに越えた美しさを装い、何処(どこ)かセクシーな雰囲気を醸(かも)し出し、見る者すべてを魅了させざるを得ない圧倒的な存在感で佇む唯一無二の代物だった。
そのヒゲを一目でも目に入れたら、女性は卒倒し、男なら誰でも憧れてしまう。燦然と輝く夜空の星のごとく、その素晴らしさは絶対的な説得力があるだろう。
そしてあのギリギリで卑猥さを残しつつある意味芸術の域をはるかに越えた美しさを装い、何処かセクシーな雰囲気を醸し出し、見る者すべてを魅了させざるを得ない圧倒的な存在感で佇む唯一無二のヒゲの持ち主はバリーだった。
彼は先日手に入れた銃を試しにきたのだ。
おもむろに生い茂った胸毛の奥から現金を出すと、アルバイトだろうか?その若い男に金を払った。
「毎度です!いやぁバートンさん相変わらずそのヒゲ見るとときめいちゃいますよ。あっこれおつりです。弾は9パラで良いんですよね?・・・と、ハイお待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ〜」
彼も既にバリーの虜だ。表情は恍惚に満ち、羨望の眼差しをバリーへと向けている。
バリーは何も言わずニヒルな笑顔を向け、右手を上げて答えると、バイトの男は壊れてしまった。
「あぁどうしよう!憧れのバートンさんがおれに笑顔をくださったぁ!!はぁはぁ、おれすっごくどきどきしてるぅ!おれ、おれもう・・・あぁバリーさーん!ステキだなぁ・・・おれも、おれもいつかバリーさんみたくイカスヒゲでも生やしてバリーさんと二人でヒゲコンビとか言われてみたり・・・」
そんな壊れたアルバイトをよそに、空いている場所に入り早速マガジンに銃弾を詰め込む。さすがにその手つきは慣れきっていた。
しかし弾を込め終えたあと銃に手を伸ばしたバリーの手が止まる。
そしてあたりを見回す。気のせいか彼の体が震えているようにも見える。いや確かに震えていた。
震える彼の手の先には先日入手したばかりの SAMURAIEDGE が無いではないか!
彼の震えはもはや手先だけでは留まらず全身に及んでいた。
そしてそこには・・・

鬼がいた

・・・・・・トイレにて・・・・・・

「へっへぇ兄貴ぃナンカしんねぇけどカッチョイー銃拾ったぜぇ?なぁ見てくれよぉ・・・」
やたらと間延びする声で誰かが話している。
「うるせぇ!今何してるかわかってるだろぉ!!もうちょっと待て」
どうやら二人組みらしき男達がなにやら言い合っているようだ。
しかし兄貴と呼ばれたほうの男の姿は無い・・・いや個室に入っているようだ。
( なお、便宜上これ以降彼を「兄貴」と呼ぶ事にする )
カラカラカラカラッ
乾いた音の後に水が流れる音がする。どうやら用を足していたようだ。
「ふう。やっとすっきりしたぜ・・・で、なんだブラッド
「兄貴はいつもトイレが長いんだよぉ・・・」
「そうじゃねぇだろ!この馬鹿!!最近暑いからなぁ脳に蛆でもわいてんじゃねぇか?」
言いたい放題である。しかし言われたほうのブラッド(!?)は何も感じてはいないようだ。
「あぁ〜ぅぅう・・・そうだぁカッチョイー銃を拾ったんだよぉ・・・」
といって兄貴に銃を差し出す。
「ほう・・・これは・・・銃の素人の俺でも判るぜ!こいつを売ればしばらくラクできるぜ!よくやったぞ!ブラッド」
その銃はまさしくバリーのものだった・・・

「よし!さっさとこの銃を売っぱらっちまって飲みにでも行くかぁ」
「ぅぅう〜あぁ〜ぉぉぉ」
二人がトイレから出ようとドアノブに手を掛けたその時!

ゴォゥア!!!

「なっ!!!」
「あ〜ぁ〜ぁぁぁぁうぅぅぅ〜」

突如爆発が二人を襲い、爆風に吹き飛ばされ、トイレの床に叩きつけられた!

・・・しかし爆発音に対して被害のほうはさほど大きくはないようだ。
おそらく、目的は足止め程度だったのだろう。
二人組みのダメージもブラッドの右足が吹き飛んでしまった位だ。
濛々(もうもう)と舞う煙の向こうから誰かがゆっくりと歩いてきた。
煙の隙間からかすかに見えたのは、
ギリギリで卑猥(ヒワイ)さを残しつつある意味芸術(アート)の域をはるかに越えた美しさを装い、何処(どこ)かセクシーな雰囲気を醸(かも)し出し、見る者すべてを魅了する唯一無二のヒゲ
そう。犯人はバリーだった。
無言で佇むバリーのその形相は鬼そのものだった。
「げほっ!げほっ!ちきしょう!なんだってんだ!?」
「う〜ぅ〜ぉ〜」
と、毒づく二人(?)にすっとバリーは近づいた。

「てめぇか!?こんなことしやがったのは!!人の迷惑とかそういうの考えたこと無いのか?このヒゲがぁ!!」
兄貴は胸座をつかみ上げるとそう言い放った。
しかしバリーは相変わらず無言だ。煙が晴れるのを待っているのだろうか?
「だいたいてめぇなにもんだぁ!?この俺が誰だか知っての振る舞いか?後で謝ってもしらねぇからなぁ!」
「その質問に答える義務は無い。しかし確かに謝って済む問題ではないな。
貴様らには死すら幸福に思える程の拷問が待っている。安心しろ。決して死なせはせん」
明らかに威圧的に兄貴に接するバリー。
「ご、拷問だぁ?なぁにいってやがんだこのヒゲがぁ!!!いいかげんにしねぇと・・・?ヒゲ?」
兄貴はある噂を思い出した。
「そ、そのギリギリで卑猥(ヒワイ)さを( 長いので中略 )唯一無二のヒゲはまさか・・・あの銃火器に関しての知識と経験で右に出るものは無く( ホントは気が弱いけど )自分の武器に危害を加えられればその相手をとことんまで追い詰めて家財一式・有り金から隠し預金まですべて巻き上げると言われている・・・<鬼ヒゲバリー>!!( だっせぇ・・・ )ま、まさかさっきブラッドが取ってきた銃って・・・」
点と点が繋がったのを兄貴は確信した。
掴んでいた胸座をきちっと直して後ずさる。
「言い訳はウンザリだ・・・覚悟しろ」
そういいながら黒い皮手袋を両手にはめ、ゆっくりと兄貴に近づいていった。
「お、おい!ちょっと待ってくれよ!盗ったのは俺じゃねぇ!!こいつだ、このブラッドが盗ってきたんだ!!」
とっさに兄貴はブラッドを売った!しかし、
「ブラッド?懐かしい名だ・・・あいつはいい奴だった・・・聞いた話だと最後までネメシスって化け物と果敢に戦ったそうじゃないか・・・誇り高き戦士よ( ホントは警察官 )安らかに眠れ。・・・しかし貴様らは楽には死なせん・・・」
自分の銃のことで頭のネジが5・6本海馬あたりまでめり込んでしまったバリーには、すこしも行動に迷いは無かった。
「く、くそう!こうなったらやってやるさ!いくら鬼ヒゲバリーといっても所詮同じ人間やってやれねぇことはねぇ!!行けブラッド!!」
「う〜あ〜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
けしかけられたブラッドは千切れた右足を引きずりながらも前へ進み出た。
「?ゾンビか・・・なぜ人間の言うことを聞いている?・・・まぁ関係ないか。死ね。」
実際ゾンビやハンターなどの化け物を相手に戦ってきただけあって、一目でブラッドをゾンビと認めたが、さして不信感を抱くわけも無くあっさりとただの標的に変換した。
「おぉぅぅぅぅうあぁぁぁぁぁぁ」
ブラッドは必死にバリーに向かって行く。並みのゾンビとはけた違いのスピードだ。
しかしバリーはひらりと身をかわし、すれ違いざまに相手の頭部めがけて発砲した。
「あぁぁぁぁぁぅぅぅ・・・」
この至近距離で外すはずも無く、ブラッドの頭を半分ほど吹き飛ばした。
「ふむ。流石は SAMURAIEDGE 威力もなかなかだ。しかし多少照準にズレがあるな・・・あとで調整が必要だ」
見事クリティカルヒットを決めると、ふきとんだブラッドの頭部には目もくれず、冷静に次の標的を探した。
「あぁ!ブラッドォ!!よ、よくもブラッドを!!この人殺しめ!!」
「何を言ってるんだ?次はお前の番だ」
兄貴はブラッドがゾンビだと知らなかったようだった。
しかしバリーも平常ではない。いつものバリーならゾンビと繋がりがある兄貴を捕らえるなりして、尋問にかける程度のことはたやすく思い浮かぶだろう。
しかし完全にキレきっているバリーは兄貴をも始末しようとしていた。
兄貴は両手にナイフをどこからとも無く取り出した。
「俺はあの切り裂きジャックにあこがれてたんだ!てめぇなんて一瞬で切り刻んでやる!!」
ガガウゥン!!
一瞬で兄貴のナイフを打ち抜くと、ゆっくりと兄貴に歩み寄る。
「誰かに憧れることはいい事だ。たとえそいつが伝説の殺人鬼だとしてもな。しかし、ただ憧れるだけでは何も前には進まない。そこからその憧れに対して自分を昇華させなくては意味が無いのだ。さあ、覚悟は出来ているか?半端な者よ。お前の命はあと数分で幕を閉じるんだ。さっさと神にでも祈るがいい」
先ほどは「殺さない」といっていたわりに、あっさりとその発言を自分で裏切るバリー。
今の彼には矛盾という言葉は無い。
いま彼にあるのは愛しい SAMURAIEDGE の復讐だけだった。
あせった兄貴は叫んだ。
「ま、待ってくれ、殺さないでくれ!そ、そうだ!おれのコレクションをやるから!たのむ!」
兄貴の命乞いがはじまった。
「フン。コレクションか・・・貴様のコレクションがこの俺のコレクションに勝っているものがあるとでもいいたいのか?笑わせてくれるな。さっさと死ね」
当然の答えだった。
個人の銃の収集でバリーのコレクションを上回っているものがいるとすれば、それは世界の富豪たちのくだらないお遊びか、クリスのそれくらいのものだろう。
クリスは量はさほどではないが、アンブレラの基地へ潜入したときなどに拾ってくるかなりレアな銃器をいくつか持っている。
それがうらやましくて仕方ないのだが。。。
「ち、違う違う!銃であんたの満足しそうなもんなんて思いうかばねぇよ!俺のコレクションってのは・・・これさ!」
そう叫ぶと、勢いよくトイレの床に何かを叩き付けた!
とたんにあたりは白煙に包まれ、20a前さえも見えないほどに覆い尽くされた。
「む、しまった!」
バリーははめられた事に気づき、兄貴がいた辺りに掃射した。
ハンドガンとは思えぬ神業だった。
「じゃあな!鬼ヒゲ!もう二度とあんたの前には現れないぜ!おい!行くぞブラッド!」
「うぉぉぉぉぉああぁぁ」
いつの間にか復活していたブラッドとともに、兄貴の声は白煙のかなたへと消えていった。
「・・・逃げられたか。まあいい。銃は無事に俺の手に戻ったんだからな。」
意外にあっさり諦め、射撃場へと戻ろうとしたところ、携帯が鳴り、バリーの歩みを止める。
相手はレオンだった。
「チッ、もうそんな時間か・・・あんな若造に呼び出されて銃の調整が出来なくなるとは・・・」
かなりへこんで電話に出ると、少し遅れる事をレオンに告げ、射撃場を後にした。

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