CASE 1 : クレア・レッドフィールドの場合

TOP-B.A.S-序章:それぞれの朝

朝だ。今日はいつものさわやかな目覚めとは違い、気分が憂鬱になる。

雨が降っているからだ。
彼女は雨が嫌いだ。理由は分からない。小さな時から嫌いだった。
彼女はそんな憂鬱な気分を無理やり押し込めて、起きることにする。と、何か自分の部屋に違和感を感じ、体を起こすのを一端休止する。
なるべく寝ている時の呼吸を意識して、その違和感が何か考えた。
(・・・誰かがこの部屋にいる・・・?)
いまこの家にいるのは彼女と兄のクリスだけだ。
この家は、あのロックフォートの事件後にクリスが偽名で買ったため、ここを知っているのはジルとバリー、それにレオンの三人だけ。彼らが今たずねてくるとは思えない。

一緒に住んでいるクリスの部屋は三階にある。しかもこの時間だと、クリスは地下に作った射撃場で愛用のSAMURAIEDGEを堪能しているはずだ。

(五分くらいたったかしら?動く気配はないわね・・・私の勘違い?)
そう思い動こうとした瞬間

ガサガサ!
「うっ!うぅぅ・・・・・・ふう」
(男の声!)
考える前に体が動いていた。

これまでの経験から、常に武器は手放せない。たとえ眠っている時でも。
このベッドにも拳銃が二丁とコンバットナイフが隠してある。
そのうちの一つの三点バースト付きのハンドガンを手に取ると、起きざまに発砲した。
ワントリガーできっかり三発。

「ぐぁぁ!」
(よし!当たった!)
手応えを感じた彼女はそのままその進入者の元へと近づいた。もちろんポイントは当てたままだ。
倒れたままの男は苦しそうに悶えている。大柄で筋肉質の男だ。

(この至近距離で三発も食らったのにまだ生きているなんて・・・防弾ベストをつけてたとしても・・・油断しちゃだめね)
やはり頭を狙うべきだったか?などと考えながら更に近づく。

そして男の肩口を思いっきり蹴り上げ、うつ伏せだった体を強制的に反転させる。
(・・・!?)
「クリス?クリスじゃない!?あなただったの、ごめんなさい!私はてっきり・・・」
彼女はハンドガンを投げ捨てクリスを抱き起こした。
「うぅ・・・なかなかいい反応だったな・・・。とっさのことでかわせなかった。」
そう言うと、クレアに支えられながらベッドに腰をおろす。

「大丈夫?思いっきり手応えがあったんだけど・・・?」
クレアは心配そうにクリスを覗き込む。

「ああ。一応防弾ジャケットを着けてたからな。それにたとえ生身だったとしても9パラぐらいじゃ死なないさ。ちょっと休めば大丈夫だ」
と、少し顔をしかめながらウインクしてみせた。

それを見て安心したのか、クレアはため息をつきながら
「もう!本気でびっくりしたんだから。でもどうしてノックもしないで私の部屋へ?いつもなら今ごろは射撃練習してるでしょ?」
と、当然の疑問を口にする。

「あ、ああ。それはだな・・・そ、そうだ、訓練してたら急に腹が減ってな、いつもより早いけど朝飯にしようと思っておまえを起こしに来たんだ。うんそうだ」
何故か狼狽しながらもそれらしい説明をする。
「・・・もう仕方ないわね、いい加減トースターの使い方ぐらい覚えなさいよ。ちょっと待ってね、着替えるから」
「ああ、悪いないつも」
と言いながら、軽くそわそわしている。
クレアはクローゼットの前でパジャマを脱ぎ始める。部屋にクリスがいるのにお構いなしである。
以前に巻き込まれた事件のせいで所々に大きな傷はあるが、全体的に整った体だ。まだ若いためか、淫美な感じはなく、清潔そうな空気を纏っている。
「飲み物は何にするの?」
クリスに背を向けて、ブラに腕を通しながら聞いてくる。背を向けた時にチラリと見えた胸の膨らみも程よい大きさと形を保っている。
「・・・ん?あぁ、ホットミルクでいいよ。やっぱり運動の後はミルクがいちばんさ」
一点を凝視していたクリスは、焦りながらそう答えた。心なし目つきと話し方が変わってきている。
「さて、と。じゃあ下へ行きましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
前かがみに立ち上がると、胸をさすりながら
「ぐ・・・いや先に行ってくれ、まだ胸が痛む。飯の支度が出来たら呼んでくれ」
と言うと、またベッドに座り込んだ。
「ごめんなさいね、次からはきちんと相手の顔を見てから撃つようにするわ・・・。じゃあ出来たら呼ぶから待っててね」
実の兄を撃ってしまった後とは思えないさわやかな笑顔を残してクレアは部屋を出ていった。

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