CASE 1 : クレア・レッドフィールドの場合
何故かソワソワしている兄と共に朝食を取ったクレアは、洗い物をしていた。
彼女がやらないと何日でもほったらかしになるからだ。
「食後のコーヒーでも飲む?」
気を利かせたクレアがそういうと、ちらちらクレアの様子を
「あぁ、頼む。」
と答える。
と、そこで何かを思い出したらしく、クレアに顔を向けると、
『砂糖は4杯頼む』
見事に二人の声がハモった。
クレアがにんまり笑う。
「何年一緒にいると思ってるのよ?分かるわよそれくらい。でもいつからかしら?兄さんが甘党になったのって?」
「ん?あぁいつからだったかな?ハイスクールのころはもうそれくらい入れてたからな・・・」
クリスが思い返しながらにやりと笑う。
「まぁ今更好みが変わるわけでも無いしね。いいんじゃない?それなりに運動はしているわけだし」
「まぁな。それよりクレア、今日の予定は?」
ごく自然に話をクレアの予定に持っていく。
「今日は特に何の予定も無いから家にいるけど・・・どうして?」
「い、いや俺も特に意味は無かったんだが・・・な、何も予定が無いなら・・・お、俺と散歩でもしないか?」
クリスはがんばった。が、
「こんなに雨が降っているのに?どうせなら晴れた日にしましょうよ」
クレアは当然の切り返しをする。
何も雨が降っているのに出かけることは無い。何よりクレアは雨が嫌いだ。
クリスはショックを受けた様子で何かを考えている。
「あ、そうだわ。そんなに外に出かけたいならちょっと買い物にでも行ってきてくれるかしら?丁度切らしてたのよね。オリーブオイルとかいろいろ」
さらにショックを受け、驚愕していたクリスだが、何か思い直したらしく、
「あぁ、わかったよ。買ってくるものを書き出しておいてくれ。俺も弾薬とかを補充しておきたかったんだ。行ってくるよ」
補充する弾薬を見てくる。クリスはそう言って、地下の射撃場へ降りていった。
( ・・・さて、何を買ってこさせようかしら?なるべく時間がかかりそうなもの・・・ )
クレアは何か思惑があったらしく、クリスを追い払うつもりだったようだ。
「じゃぁ行ってくるよ」
準備を終えたクリスは、防弾ジャケットを都市迷彩のものに変えて準備を済ませていた。
「えぇ。気をつけてね」
クレアはそんな兄の服装の無頓着さをあえて指摘せず、笑顔でクリスを送る。
「しかしなぁ・・・なんでオリーブオイルとセメントの粉や10ミリの鉄板なんかを一緒に買ってこなくちゃならないんだ?」
まったく共通性の無い買い物一覧表を見ながらクリスが疑問を口にする。
とっさの言い訳もクリスとは違い、ごく自然に答える。
「セメントの粉は裏のレンガ塀が崩れそうだからその補強のため。鉄板は兄さんの真っ黄色の防弾ジャケットの修理用。その他のものもちゃんと意味があるの。私が行ってもいいんだけどそれなりに重いし・・・ね?」
「あ、あぁそうだな。悪かった。とりあえず買ってくるよ。じゃあクレア、お前も気をつけるんだぞ!知らない奴が来てもドアを開けたりするなよ!」
クリスは子供に対するような注意をクレアにする。
「何言ってるのよ?私を子ども扱いしないでくれる?私より兄さんの方がよっぽど心配だわ。ちゃんと買ってきてね!」
冗談ぽく怒りながら腰に手を当ててみる。
「あぁすまんすまん。じゃあ行ってくるよ」
「えぇ行ってらっしゃい」
そういったクリスはなぜか行こうとはせず、クレアの顔をじっと見る。
「何してるの?早く行ってきてよ」
半分目を閉じてニヤついているクリスにそう告げる。
ハッとしたクリスは三度目の「行ってきます」をいってようやく出かけて行った。
( ・・・・・・・・・行ったわね。さて、昨日も兄さん色々やってたみたいだからまた一稼ぎ出来るわ。急がなくちゃ )
彼女はクリスをネタに何かバイトのようなものをやっているのか?
玄関に鍵をかけ、すばやく自室へと向かった。
ベッドの脇のボタンを押す。
すると、クリスが入ってきた隠し扉とは真逆の壁からガチャリ、と何かが外れる音がした。
壁を押すと音も無く通路が現れた。
奥にはもう一つのクレアの部屋がある。
網膜パターンで電子ロックを解除すると、いくつものモニターが現れた。
そこに映っているのはこの家の部屋だ。
この数からすると、ほぼ全ての部屋が網羅されているだろう。
( さ、昨日の兄さんの部屋とリビング。それにトレーニングルーム・・・あとは今朝の私の部屋ね )
それぞれに対応したデッキからビデオテープを取り出す。
( 兄さんたらバカなんだから。いったいいつになったら気がつくのかしら? )
そう。彼女はクリスを盗撮していたのだ。
世の中には筋肉マニアな女性は掃いて捨てるほどいる。そしてそれに勝るとも劣らぬほどマッチョマニアな男性も。
クリスは割合ハンサムなので、この筋肉ビデオの買い手探しにも困らない。
むしろ今ではこんな絵が欲しい、などという注文が入ることもある。
実の兄を小遣い稼ぎに。
一時とはいえ、彼女はレオンとともに行動した時期がある。そう、ラクーンシティーへクリスを探しに行ったときのことだ。あの時レオンから何らかの影響を受けたのかもしれない。悪いところだけを。『私』が最高。『私』が得するのが大好きになってしまったのだ。
( あ、これなんか良さそうね。顔が半分切れてるけど、まぁこれならイケるわ )
クレアはトレーニングルームの画像から、丁度良さそうな( つまり高く売れそうな )部分をPCに取り込んで若干の修正を加えるとまた他のネタを探す。
取り込んだ画像は紹介用だ。だからある程度適当でもいい。
クレアの取り扱っているモノは動画だから。そしてそちらの方が圧倒的に高く売れる。
こうして彼女は収集した兄の画像をネットで売りさばく。稼いだお金は、彼女の遊ぶ分に注ぎ込まれる。
友人との交際費。
バイクの改造費。
没頭しているネットショッピング。
etc.etc...
およそ一月半の間で稼いだ総額はざっと数えても、2万ドル程になる。
大学生の稼げる額ではない。これも全てあの兄のおかげである。
よくもまぁ実の兄をネタにここまで稼いだものだ。
( でも兄さんったら一体何しに私の部屋へ入ってくるのかしら?今朝なんか10分くらい居たみたい。まぁ何でも良いけどこれは没ね。まったく顔が映って無いし、露出が高いわけでもなく・・・なによりわたしが映ってるのが1番ダメね )
やっぱり兄妹。クレアもバカだった。
彼女はクリスの所業にまったくといっていいほど気付いてなかった。
これがあんな事を毎日やっていてもクレアと一緒に住める真相だ。
( うーん・・・今回はあんまりいいのが無いわね。「ksWer」ってヤツと「BerBalytone」ってヒゲくらいね・・・困ったわ。今月はコンパが12回もあるのに・・・ )
「ksWer」と「BerBalytone」。この二人はどんな映像だろうと購入のメールが届く。しかも販売を始めた直後からだ。どんなに高くても手を出すのでは?と思ってしまう。現在最も大事な上客だ。すこぶる怪しいが、ネットの海は闇の海。どんなヤツがいてもおかしくは無い。あまり突っ込むと自分に被害が及ぶ可能性もある。
クレアは次々と盗撮ビデオから使えそうな画像を取り出していく。しかし、いつも程いい映像は取れていないらしく、今月の支出に対し真剣に悩み始めた。
それにしてもコンパ12回。
行き過ぎである。
しかもクリスには1回もばれてない所が更にすごい。
( 仕方ないわ・・・あんまり見たくないんだけど・・・お金には代えられないもの )
と、ある覚悟を決めて、1本のビデオを手に取った。
ラベルにはバスルームと書いてある。
もちろんそこには、生まれたままの姿のクリスが映っている。
手早く編集用デッキにテープをセットすると再生する。
「う・・・」
思わず呻いてしまった。
開始早々、クリスのアレがドアップで映し出されたのだ。
一瞬動揺したクレアだが、数回深呼吸するともう一度画面に目をやる。お金には敵わない。
( ま、まったく、いきなりあんなモノ見せられるとは思わなかったわ。心の準備も何もなしじゃぁきついわね・・・大体なんなの?あの大きさ。でかけりゃ良いってもんじゃないのよ。まったく無駄だわ。おまけに皮付きだし・・・グロイったらありゃしない。でも・・・なぜかこういうのが高く売れたりするのよねぇ。ま、私は助かるんだけど )
ウンザリしながらクレアは編集を続けていく。
( でも、これならそうとう儲けられそうね!コンパでも男も何でも来い!ってな感じよ♪ )
先程の嫌悪感をあっさり拭い、儲けがいくら位になるのかを考えると自然と彼女の口元から笑みがこぼれる。
( あぁまたポージングしてるわ。ホントに筋肉バカなんだから。にしても・・・未だにキスマークとかは無いのね。あれがあるだけでも値段が上がるのに・・・兄さんって女に興味あるのかしら? )
興味があるのはクレア。君にだよ。
しかし、兄を便利なお小遣いのネタにしか見ていない彼女には、そんなクリスの本性に気付くはずもなかった。
( はぁ。なんで筋肉なのかしら?まったく分からないわね。キモイわ )
イェア、クリスハートブレイク。
クレアはクリスに筋肉をイヤと言うほど見せられている為か、マッチョの男は好きになれなかった。レオンのようなしなやかな筋肉なら話は別だが、レオンはパスだ。
本当のレオンをラクーンシティで見せ付けられた為、もうどうひいき目にみても恋愛対象にはならない。
あの見た目に何人の女性が犠牲になったのだろう?
しかもレオンは自分の容姿を十分理解している。だから定職に就かずともプラプラと暮らしていけた。
そして現在は警察官( もうすぐ辞めるが )。
なんとも物騒な世の中である。
「さて、と」
一通り編集を終えたクレアは、PCをアングラなHPへと接続する。
( これだけ露骨だとここでも危ないわね・・・何処で紹介しようかしら? )
クレアは自分のホームページを持ってはいなかった。基本的に職人系の活動を主としいて、その筋ではかなり有名になっていた。画像が良質の割に驚くほど容量が軽いのだ。まぁそれはシェリーのおかげなのだが、姉思いの良い娘である。
彼女は行きつけのアングラページから、更に秘匿性の高いページへとジャンプする。
会員制のUGサイトだ。
卑猥な動画・静止画を専門に扱っているサイトなのだが、クレアはそこのVIP会員だった。
クレアは知らなかったが、このサイトはあの刑務所勤務のロドリゴが運営しているサイトだった。現在彼はロックフォート島から密かに脱出し、カリブのとある刑務所に勤務していた。しかしそれはまた別のお話。
「さて、と。これで後は待ってるだけね」
一通り紹介文と画像をアップすると、クレアは席を立った。
「早くしないと兄さんが帰ってきちゃうから・・・と」
新しいテープを次々とデッキに入れていく。編集は今晩でも間に合うだろう。とにかくクリスにバレる事だけは避けたかった。お金の面で。
そして、無線スイッチの受付をONにして小さなリモコンをポケットに入れると、全ての機器をざっとチェックする。
( よし!オールグリーン!次も頼むわよ! )
いい絵が撮れることを祈って、隠し部屋を後にする。
「クレアー!帰ったぞー」
リビングにたどり着くと、丁度クリスが帰ってきたようだ。
「お帰り、兄さん。どう?いい鉄板はあった?」
こうしてクレアの休日は繰り返されていく。