CASE 3 : レオン・S・ケネディーの場合

TOP-B.A.S-序章:それぞれの朝

砂浜を走る一人の男がいた。朝日が彼を逆光で照らし、こちらからではその容姿を確認は出来ないが、その走り方からまだ若いということは判った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
彼の息はすでに絶え絶えだ。
いったいどれほど走っているのか?Tシャツは汗に濡れ、髪も乱れ、その体は滝のような汗にまみれていた。しかしその足取りは今でもしっかりとしていて、一向にスピードを緩めようとはしない。いや、彼はある公園の前で足を止めた。そして中に入りベンチに腰掛けた。
汗にまみれた男はレオンだった。
レオンはラクーンシティーの事件後、ジルやクリスと共にアンブレラを追っていた。そして今は次の情報を待っているだけの暇な時間をつぶしているのだった。
他の仲間はアンブレラの動向を探っていたのだが、彼は自分がそういうことには不向きな性格であると知っていた。・・・単に面倒だったのだ。
そこで彼はトレーニングをしたいといって仲間から暇を貰うことにした。確かに彼は健康な肉体を持ってはいたがしかし、クリスのそれやバリーの武器知識などにはやはり勝てない。そういう意味もあり、今後のためにも、ということでレオンの休暇は仲間にも認められたのだった。が。
( あーぁ。バリーでもジルでもいいから早く奴らの基地でも見つけてくれよなぁ・・・。何にも無さ過ぎて脳までくさっちまうぜ )
そうぼやいていると、子供が楽しそうに走っていった。
( ああいう子供達の為にも俺達ががんばっていかなきゃな。ラクーンシティーの再来だけはなんとしても阻止しなくちゃいけないんだ )
「ママー!」
さっきの子供が母親の下に駆けて行くのを微笑ましげに見ていると、
「あのおにいちゃんくさいのぉー!ズボンとかもびちゃびちゃにぬれてるから、きっとおもらししたんだね!あはは!もうおにいちゃんなのにはずかしいね!」
とレオンを指差しながら母親に話している。
なるほどレオンのズボンは、ちょうど股間の部分まで汗で濡れて失禁してしまったようにも見えなくは無い。それを子供に勘違いされたようだ。
「うわぁ!」
さきほどの子供が突然悲鳴を上げた!
見ると、レオンが子供の髪をつかんでこめかみに拳銃を突きつけながら睨みつけている。先ほどの笑顔が嘘のような鬼の形相だった。そしてレオンは顔を近づけ拳銃をさらに子供に押し付けると、
「おいガキィ!これはションベンじゃなくて汗なんだよぉ!くせーのもかいた汗がちょっとにおってるだけだろ?あぁ?」
レオンの秘められた一面だった。仲間がいる時には決して見せない荒々しい、というよりもむしろ人として逸脱したレオンがそこにいた。
「や、やめてください!警察を!誰か警察を呼んで!!うちの子が殺されちゃうぅ!!」

( 警察?上等だぁ・・・!あ、しまった!警察は俺じゃねぇか!! )
レオンは警察という言葉で我に返った。
( どうする?どうにかしてこの場をおさめなければ!この場合の脅威は母親だ。こいつを何とかしなければ厄介なことになる。周りの人間なんてどうにでもなる。そしてこいつさえ丸め込めばガキだって・・・そ、そうだ! )
焦ったレオンは母親に言い訳を並べてさらに・・・
「お、おいおい、こんなことくらいで警察はないでしょう?ちょっと日本のスモウってやつを坊やに教えてあげたかっただけですよお母さん。それにしてもこの香り・・・先日限定発売されたAB-Nonの香水ですね?家庭に入ったとはいえファッションに気を掛けるその意識。素晴らしい事ですね」
「え・・・?あ・・・ありがとうございます」
「イエイエ、あなたは自分のいいところがよく解ってらっしゃる。ただでさえ美しいあなたがさらに輝いて見える。服装のセンスも上品に纏まっていて非の打ち所がありません」
そういうと、とびっきりの笑顔を母親に向ける。もともと顔立ちはいい方だが最近の暇な時間にレオンは整形をしていた。いまや彼の容姿はトップモデル級のため、レオンの抑揚のある話し方で迫られれば、そう簡単には断れない。
そう。レオンは母親を口説き始めたのだ。だんだんと近づいてくるレオンの顔に、母親はぽ〜っとしてきている。落ちるのはもう時間の問題だ。
( これしかない、これが今俺に出来る最高の作戦だ。ん?最高?最高といえばクリス達は無事に戻ったとかいってたな・・・後で連絡をとってみるか。あぁいかんいかん。今はこんなこと考えている場合じゃなかった。もう一息だ )
と、ここで、通行人の一人が近づいてきた。
「おいあんた!殺されるっていってたけど、大丈夫か?」
「チッ( ウゼーんだよテメー見物人はあっちで見てろ!! )」
レオンは心の中で毒づくと、母親に目配せした。
( 判ってるよな?俺と仲良くなりたいなら・・・ )
母親はレオンの目をしっかりと見つめ返し、力強くうなづいた。
「いえ、子供の演劇の発表が近くて、この人が手伝ってくれるっていうから手伝ってもらってたんです。あんまり真剣にやっていただいたのでこっちも本当に息子が苦しがっているように見えて・・・。あわててしまってすみません。ほかの方々にもそう言ってもらえますか?」
( ふっ、堕ちたな )
レオンはそう確信した。子供の世話に追われて自分の時間など無いに等しい人妻を落とすことなど、今のレオンにとってはゾンビに対してクリティカルを狙うことよりもはるかに簡単だった。これも整形手術と、同時に埋め込んだフェロモンを放出する機械のおかけである。
母親に話し掛けてきた中年の男も、多少疑ってはいたが、かろうじて納得したようだった。女の必死の説得が効いたのかもしれない。それと子供が笑っていたのも大いに関係しているだろう。
母親に叫ばれてすぐさま銃をキャンディーに取り替えたのが功を奏したのだろう。
よく見ると子供のポケットには紙幣の束が詰まっている。
なかなかに強かな子供である。
「ふー。]
( 危なかったな。こんなところで揉め事を起こしたらバリーやジルになんて言われるか・・・ )
ふと母親を見ると、濡れた瞳でこちらを見つめている。心なし息も荒いようだ。
「すみませんでしたね、大事なお子さんをひどい目に会わせてしまって・・・なんとお詫びをすればいいのか・・・。この埋め合わせを今度の水曜日にでもさせてもらえませんか?もちろんご主人には内緒でですよ」
「ええ!もちろんです。ぜひともこちらからお願いします。出来ればご連絡先などをおしえてくださいませんか?私から掛けますので・・・」
こうなれば人妻は脆いものである。若い男の肉体を思う存分絞り尽くす為ならどんな手を使ってでも男を放さないだろう。レオンはそれを経験上知っていたので、適当なTEL番号と名前を教えてこの場を去った。

人妻なんかにうつつを抜かしている暇など彼には無かった。
もうすぐバリーやジルとの待ち合わせの時間だ。今後の活動拠点についての話し合いだ。レオンは、逸る気持ちを抑えきれず、通行に邪魔な民間人に適当に暴力をふるいながら約束の場所へと急いだ・・・

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