CASE :2 クリス・レッドフィールドの場合( 前編 )
あの後、朝食を取った二人はリビングに居た。
後片付けをしているクレアを眺めながらクリスの思考は沈む。
( あぁクレアのエプロン姿・・・たまんねぇ・・・服は着てるが俺には見える。あの柔らかそうなエプロンの下には美しく均整の取れた眩しい裸体が惜しげ無く躍動しながら皿を洗っているのが )
やはり意味の分からない事を考えながらなおクレアを見続けていると、突然クレアが振り返り、
「食後のコーヒーでも飲む?」
と気を利かせてきた。
ずっとクレアを見ていたため、いきなり目が合いぎくりと身じろぎしたが、何とかがんばって平静を装い、応える。
「あぁ頼む」
( おぉクレア・・・なんて優しいんだ!俺のためにコーヒーを入れてくれるなんて・・・ヤッパリお前、俺のことが・・・ )
一瞬何処かへ行きかけたくりすだが、ふと思い出し、付け加える。
『砂糖は4杯頼む』
見事に二人の声がハモった。
クレアがにんまり笑う。
「何年一緒にいると思ってるのよ?分かるわよそれくらい。でもいつからかしら?兄さんが甘党になったのって?」
( ハモった!?俺達はやっぱり一心同体だ!クレアーーー!! )
「ん?あぁいつからだったかな?ハイスクールのころはもうそれくらい入れてたからな・・・」
( お前を意識してるんだよぉクレアぁ、お前は俺にとって蜜よりも甘く、そしてどんな宝石よりも輝いてるんだぁ )
「まぁ今更好みが変わるわけでも無いしね。いいんじゃない?それなりに運動はしているわけだし」
( そうだ、クレアの今日の予定をチェックしなくては! )
「まぁな。それよりクレア、今日の予定は?」
( おう上手い!流石俺。完璧だ )
クリスにしては自然に話をクレアの予定に持っていくことが出来た。
「今日は特に何の予定も無いから家にいるけど・・・どうして?」
「い、いや俺も特に意味は無かったんだが・・・な、何も予定が無いなら・・・お、俺と散歩でもしないか?」
クリスはがんばった。
が、クレアから返ってきた返事はそっけなく
「こんなに雨が降っているのに?どうせなら晴れた日にしましょうよ」
と、当然の切り返しにクリスはざっくりと心をえぐられた。
クレアは雨がキライだ。
( 畜生!たかが雨の分際で俺とクレアの至上の一時を邪魔しやがって!折角休みにクレアが居るってのに!!ああどうすりゃいいんだ!!くそー!!! )
クリスがどうしようも無い怒りを天気にぶつけていると、(クリスにとって)更なる悲劇が訪れた。
「あ、そうだわ。そんなに外に出かけたいならちょっと買い物にでも行ってきてくれるかしら?丁度切らしてたのよね。オリーブオイルとかいろいろ」
( な・・・なんだって?クレア。そんなに俺と一緒にいるのが厭なのか・・・そんな・・・あんまりだ・・・ )
クリスは目の前が真っ暗になったのを感じた。
(あぁクレア・・・おれがどんなにその
尻を、乳を、激しくまさぐりたいか知っているのか?)
知るわけも無い。
しかし、すぐに思い直しクレアに返事を返す。
「あぁ、わかったよ。買ってくるものを書き出しておいてくれ。俺も弾薬とかを補充しておきたかったんだ。行ってくるよ」
( ふ・・・まぁまて、クリス。きっと本当に物が足りないんだろう。というか一緒に居るのが恥ずかしくてそんな事を。かわいいやつめ。ここは一発、頼れる兄貴として速攻で買い物くらいこなして更にクレアの印象アップだ! )
そんな暴走兄貴をよそに何かを考えながらキッチンへと消えていくクレア。
クリスはもちろんそんなそぶりには気付かないまま、地下へとチェックへ向かう。
( ついでに武器商に圧力かけてまたランチャーの弾を横流しさせよう。今朝しこたま撃っちまったからな・・・ほかには何が足りないのか・・・ )
珍しく普通の思考回路が回復したクリスは、実際に足りなくなってきた弾や整備用品をリストアップし、洋服を都市迷彩のものへと着替え、クレアの待つ1階へと戻る。
するとそこにはクレアが待っていた。
( あぁクレア、俺を待っててくれたのかい?ふふ、かわいいやつめ。お前は絶対に俺が幸せにしてやるぞ。他の変な男なんかすべて俺がぶっ殺してやる! )
若干レオンチックな思想を抱きながらクレアに近づくと、クレアがすっと身を引き道を空ける。
クレアからの甘い行ってらっしゃいのキスを期待していたクリスは、少しがっかりしながら玄関まで進むと振り返り、クレアに声をかけた。
「じゃあ行ってくるよ」
「えぇ。気をつけてね」
たかが買い物に行くのに都市迷彩の防弾ジャケットを身に着けている自意識過剰な兄に対して特に突っ込まず、送り出そうとしている。
「しかしなぁ・・・なんでオリーブオイルとセメントの粉や10ミリの鉄板なんかを一緒に買ってこなくちゃならないんだ?」
まったく共通性の無い買い物一覧表を見ながらクリスが疑問を口にする。
しかし、なに当たり前のこと聞いてるの?とでも言いたそうな表情でクレアが答える。
「セメントの粉は裏のレンガ塀が崩れそうだからその補強のため。鉄板は兄さんの真っ黄色の防弾ジャケットの修理用。その他のものもちゃんと意味があるの。私が行ってもいいんだけどそれなりに重いし・・・ね?」
「あ、あぁそうだな。悪かった。とりあえず買ってくるよ。じゃあクレア、お前も気をつけるんだぞ!知らない奴が来てもドアを開けたりするなよ!」
クリスは子供に対するような注意をクレアにする。
「何言ってるのよ?私を子ども扱いしないでくれる?私より兄さんの方がよっぽど心配だわ。ちゃんと買ってきてね!」
冗談ぽく怒りながら腰に手を当ててみる。
「あぁすまんすまん。じゃあ行ってくるよ」
「えぇ行ってらっしゃい」
そういったクリスはなぜか行こうとはせず、クレアの顔をじっと見る。
( あぁやっぱり心配だ・・・俺が居ない間にストーカーとかがかわいいクレアを手篭めにしようと・・・あ〜んなことやこ〜んなことををを!!しかしおれは最高。本格的にクレアが襲われる前に颯爽と現れ、襲い掛かるストーカーを瞬きする間も無く射殺し、そして無事に救われたクレアは遂に俺の愛に気付きそして・・・そしてぇぇ!! )
「何してるの?早く行ってきてよ」
半分目を閉じてニヤついているクリスにそう告げる。
ハッとしたクリスは三度目の「行ってきます」を言ってようやく家を出た。
「さて、買い物なんざサクッと片付けて頼れる男をアピールでもするか!」
気合十分、クリスは最近購入した軍用ジープ(各種改造済み)に乗り込むと、防弾のサングラスを掛ける。
何故サングラスが防弾なのだろう?
普通相手を撃つ時、額やこめかみならいざ知らず、目玉などを狙う輩がいるとは思えない。
それともあえて相手の目を狙うような技術と残忍さを持つ相手でもいるのだろうか?
「やっぱり防弾はいいよなぁ・・・多少重いとはいえ、防弾って響きがイイ」
ただの防弾マニアだった。
普通にキーを捻ると、ジープ独特の心地よいとは言えぬ振動がクリスに伝わる。
「この揺れ、この染み付いた機械油や硝煙の匂い、みすぼらしい見た目とは裏腹に力強いパワーと小回りの利く操作性、それに何より男ップリがたまらん・・・」
何故かジープに愛着があるようだ。
ジープの愛好家は多くは無いが、マニアックとまでは行かない。
十分普通の趣味である。
言うなればクリスの唯一といっても過言ではない普通の趣味かもしれなかった。
ある程度その微弱な振動を楽しんだ後、ごく乱暴にギアを2速に叩き込む。
それと同時にアクセルを床まで一気に踏み込む。
すると今までおとなしくしていたジープは、激しいスキール音を上げ、狂ったように走り出した。
なんとも乱暴な運転である。
歩行者などは見てもいない。
確かにクリス達は、いつ襲われても仕方の無い戦いをしているため、なるべく一般人を巻き込まないように人気の少ない田舎の更に奥のほうに住居を構える事にしている。
なので車多少乱暴でも構わないと言えば構わないのだが・・・
「やっぱりドライヴする時は音楽をかけなきゃな・・・っと、アレはどこにやったっけ?」
なにやらお気にいりのMDを探しているらしい。
軍用ジープにMDデッキとはなんとも微妙な感じではある。
基本的には実用一点張りの造りになっているジープだが、クリスの愛するクレアも乗る為、あまりにそのままでは乗り心地が悪い、よって様々な改造が加えてある。
シートはふかふかの座り心地重視のセミバケット、ハンドルも最新式のパワステに入れ替え、無理矢理付けたドアは(元は付いていなかった)無意味にガルウイングである。
他にも、オーディオ等はカーナビを兼ねるビデオ・DVD・CD・MD・メモリスティックなど、あらゆるメディアを再生できる超コンパクトコンポシステム(シェリー作)を搭載し、クリスの好みで音波レーダー、衛星レーダー、サーモグラフィー、赤外線カメラ、暗視カメラ、動態探知機、地雷探知機、対空レーダー、などのまさしく軍用装備が、見た目まったくそれと分からずに装備されている。
また、銃器も豊富で、ハンドガンはもちろん、アサルトライフル、サブマシンガン、等の軽量〜中量級の銃器の他に、小型化したガトリングガン、バズーカ、火炎放射器なども装備されている。
もちろんクリスの大好きなロケットランチャーまでも。
守備面でも優秀で、フロントガラスは勿論、もともと無かったほかの窓はすべて防弾、装甲(といっても大げさではない)も特殊なもので、特殊貫通弾さえ微かに表面に傷をつける程度しか出来ない。
意図がまったく分からないが、これ一台だけで銀行強盗程度ならラクにこなせるほどの装備だった。
しかし、そんな凶悪破滅型特殊ジープとは思えぬほどの走行性である。
もともと重装備でも悪路を
しかもクレアのためだけに走行中の振動を極力抑えるよう、足回りを特に強力にカスタムしているので挙動も実にスムーズだ。
そのためクリスには多少物足りない様子だが。
・・・しかしここまでドアやらなにやらを付けるなら、別に市販車のジープでも問題ないような・・・
まぁクリスだし。
「おぉあったあった!やっぱ独りだと寂しくていかんね」
ようやく発見したMDには、クリスの字で「MAX」とだけ書いてある。
あやしぃ・・・
彼は取り出したMDを速やかにデッキにセットすると、ボリュームを上げた。
すさまじい大音量で曲が始まった。
激しくかき鳴らされるギター
重厚なボリュームでハイスピードなリズムを
ハイテンションなビートを刻むドラムス
どうやらハードロックのようだ。
歌が始まると共にクリスも歌い出す。
The calm expression which is compared with pale moonlight and looks mystical...
The paddle which has noticed me always filling you with love?
Clare, Ah Clare. All of me.
Nothing is needed for others if even you are.
The smiling face is only merely given to me.
And the erotic bust is made to bury my face...
My junior is already the maximum strength!
It will be having dreamed how many times?
Ejaculation is carried out to your beautiful face!!
Clare, Ah Clare. All of me.
It is praying that the day which licks my junior will come early even at least 1 day!
Clare, Ah Clare. All of me.
I will fall and go to the valley of pleasant sensation by two persons together!
(青白い月光に照らされ、神秘的にも見える、静かな表現)
(俺がいつもお前に愛を注いでいるのに気づいていたかい?)
(クレア、あぁクレア。俺のすべて)
(お前さえいれば他に何もいらない)
(ただ俺にその笑顔をくれるだけで)
(そして、そのエロい
(俺のジュニアはもうギンギンさ!)
(何度夢見た事だろう?)
(お前の美しい顔にぶっかけるのを!!)
(クレア、あぁクレア。俺のすべて)
(俺のジュニアを咥えてくれる日が一日でも早く来る事を祈っているのさ!)
(クレア、あぁクレア。俺のすべて)
(二人で一緒に快楽の谷へ堕ちて行こう!)
・・・凄まじいまでのエロ歌。
しかもどうやら作詞はクリス自身のようだ。
彼自身の欲望の赴くままに歌い上げたのだろう。
エロを抜いた歌詞としてみても、全体的に陳腐なものが延々と続く。
ただ、曲事態は有名なアーティストのナンバーの為、バックに流れる音だけを聞くと、非常に心地よいリズムを刻んでくれる。
このとんでもない歌(と言って良いのかはさておき)を大音量で流し、自らも熱唱しつつ愛車を走らせる。
程なくして最初の目的地、大手スーパーへとやってきた。
『スーパー・ジャイロ』と書いてある。
この近辺ではもっとも大きな食料品スーパーである。
スムースに駐車スペースへとジープを流すと、お気に入りの音楽を止めた。
「あぁ!やっぱりこの歌は最高だ!なんてぇかこう、電磁波出まくりな感じがたまらねぇ!!」
すでに電磁波に犯されきっている。
それは兎も角、愛するクレアに頼まれたオリーブオイルと数種のスパイスを購入する為に車を降りる。
「さて、と。間違えないようにしっかり買っておかなきゃな」
まるで子供のような気の持ちようである。
途中で女性の下着売り場に差し掛かった。
何故かスーパーの一角の下着売り場にしては品揃えが豊富で、子供用から大人のキワドイ物までしっかりと取り揃えていた。
クリスはふと立ち止まり、恥ずかしげも無く真紅のレースの上下を手に取る。
「そろそろクレアもこういう下着を身に着ける年頃のはず・・・。今度のバースデーには下着の詰め合わせでもプレゼントするか・・・。し、下着・・・」
( まぁクリス!なんてステキな下着なの!!特にこの黒のレース!すごくセクシーだわ・・・ )
( あぁそれはだな、クレア。お前もそろそろそういうのを穿いてもいい年頃だろ?俺からのささやかなプレゼントだ。どうだ?気に入ったか? )
( えぇ勿論よ!前からこういうのが欲しかったの!このTバックもステキ! )
( だろう?そのTバックは選ぶのに時間がかかったんだ。お前のキレイな肌に映える真紅のレースだ。どれ、ちょっと穿いてみろよ )
( えぇ?ここで?もうクリスったらエッチなんだから! )
「そんな事言わずにいいだろう?俺たちは愛し合ってるんだ!何を恥ずかしがってるんだ。さぁ今俺の目の前でこのスケスケのレースを穿いてくれ!!」
いつの間にか妄想が声に出ている事にも気づかず、真紅のTバックを握り締めなお絶叫している。
「何故なんだクレア!俺はこんなにもお前を愛しているし大事にもしている!!だから頼むよ!
はやくここでこのTバックに穿き変えるんだ!!!」
遠巻きに人が集まっている。
なかには警備員を探している者も。
( はっ!?マズイ!いつの間にか声に出していたらし。はやく脱出しなければ!! )
幾多もの視線に流石のクリスもようやく気付き、しっかりと下着を握り締めたまま走り去った。
・・・
「今のは危なかった・・・こんな所で捕まったりしたらクレアになんと言われるか。お?丁度いい。ここがスパイス売り場だ」
夢中で走っていたクリスだが、上手い具合に目的のスパイス売り場へと到着した。
手に持っていた布で汗を拭うとハッとした。
「あぁ!?これはさっきの下着じゃないか!しまった・・・つい持ってきてしまった・・・ど、どうする?」
自問してみるクリス。
単純にもとの売り場に戻せばいいだけの事だが、流石に先の騒ぎの後である。
今戻るのは得策ではない事は十分分かったようだ。
「ま、まだバースデーには早いし一つだけ買っていっても仕方ない・・・そうだ!ここいらに置いていけばいいんじゃないか!はっはぁ!なんて賢いんだ俺ぇ!!」
まぁ客としては最低だが、万引きしていくよりはよっぽどマシである。
流石に警官が万引きをしては洒落にならない。
「さて、さっさと買い込んでこんなところとはオサラバだ」
数点のスパイスを手に取ると次の物品、オリーブオイルを探しに動き出した。
程なく調理油が陳列されている棚に行き着くと、目的のオリーブオイルを探す。
「オリーブオイル・・・オリーブオイル・・・っと」
ツツッと指を滑らせつつ調理油の棚を視線が舐める。
( オイルか・・・そういやこの前ミスってこぼしちまった時思ったんだが・・・油って肌に付くとヌルヌルしてちょっと気持ちいいんだよな・・・ )
なおも棚を探し続けるクリス。
ようやく見つかったようだ。
すっと手に取り、ジッとオリーブオイルを見つめる。
( も、もしこれをクレアの肌に塗りつけたら・・・そうとうヌルヌルしてクレアの乳や尻が、感触が半端じゃなくなるんじゃ・・・はぅわぁ・・・た、たまらんぜ・・・そ、想像しただけで勃ってきやがった! )
店内だと言うのに破廉恥な想像を膨らませ、息子までも膨らますクリス。
やはり真性である。
どうせならラブローションでも使えば良かろうて。。。
しかし今度は素早く冷静に戻る。
店内で油を手に股間を腫らす男が、いかにおかしいかという事はクリスでも分かっているらしい。
( ま、マズイな・・・俺のは一回勃っちまうと出さなきゃなかなか治まんないのに・・・ )
まさかここで行為に走るほど愚かではない彼は、しかし暴発寸前の怒張を収める為、禁断の方法に出る事にしたようだ。
( 気は進まんが仕方あるまい。アレを、思い出すとするか・・・ )
かなり気後れしながら追憶に沈む。
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「おぉクリス、今頃シャワーか。トレーニングのやりすぎは筋肉にもあまりよく無いぞ」
シャワーを浴び終わったクリスにそう言ってきたのは上官ウェスカーだった。
「あぁウェスカー、ちょっと最近
よく分からない理由とその行為をウェスカーへ伝える。
上司とはいえ、STARS内では結構フレンドリーに話すのが一般となっている。
特に初期のメンバーはその傾向が顕著だ。
「まぁ脹脛を上手く鍛えるにはそれが一番効率はいいかも知れんな。どうだ?足が張ってるんじゃないのか?俺がマッサージをしてやろう」
ウェスカーはシャワーから上がったクリスに対してそう申し入れた。
「え!?そんな、流石に悪いよ。一応アンタは俺の上司なんだぜ?他のヤツに見られたらアンタが困るだろう?」
当然の断りを入れるクリス。
「気にするな。それにここには俺とお前しか居ないさ。見回りしたから大丈夫だ。さぁ早くうつぶせになれ」
ここまで言われれば断る理由が思い浮かばない。
それに確かに少し走りこみすぎて足腰に負担が来ているのも確かだった為、素直に横たわる。
「わ、悪いな。今度給料入ったら飯でも奢るよ」
「あぁそうしてくれ」
ニヤリと笑ってウェスカーはシャツの腕をまくりながらクリスに近づく。
そしてクリスの上に馬乗りになると、まず肩の筋肉からほぐし出した。
ウェスカーから持ちかけただけあって、確かに筋肉の扱いについてはかなり上手く、クリスから自然と声が漏れる。
「おぉ・・・上手いなウェスカー・・・むぅ・・・」
「だろう?いいから俺にすべてを任せ、体の力を抜くんだ。変に力を入れてると逆に筋肉を傷めてしまうからな」
言われるがままクリスは全身の力を抜き、ウェスカーのマッサージに体を預ける。
ウェスカーはどんどんマッサージを続けていく。
「うむ・・・実にいい背筋だ・・・た、たまらん・・・」
「ん?なんて言ったんだ?」
ウェスカーの手腕にうっとりとしていたクリスは、ウェスカーの怪しい発言を聞き漏らした。
「あぁ、いい背筋だと言ったのだ。力を抜いたらよく分かる。柔らかくてしなりもある。これだけ柔軟な肩と背筋があれば、強力な素手でのパンチの衝撃も上手く和らげてくれるだろう」
まるでボクシングか何かのトレーナーのような台詞を吐く。
肩から背中、そして腰へと手を進めるウェスカー。
「腰にも結構負担が掛かってるな・・・何をやってたかは知らんが、体を鍛えるには十分休める事も重要なんだ。お前はSTARSの主力なんだ、体は出来るだけ労われ」
いかにも上司らしく、しかし優しくクリスに語りかける。
「あぁ分かってるよ。肝心な時に体がイカレてたら仕事にならないからな」
( ごく普通の会話である。気づかれたであろうか? 先程からのクリスの様子。
そう、クレアさえ居なければ彼はごく普通に会話も出来るのだ! )
マッサージを続けるウェスカーの表情に微妙な変化が訪れた。
口元がニヤけるのを必死に抑えている。
ウェスカーの口から小声で言葉が漏れている。
「あぁ・・・たまらん・・・クリスの筋肉・・・まるで上質のステーキのような弾力・・・はぁはぁ・・・」
・・・コイツも真性だ。しかもタチが悪い。
しかし小声であったのと、確かに上手いマッサージの効果もあってクリスには聞こえていないようだ。
いつの間にかコクリコクリと船を漕いでいる。
「そ、そろそろいいだろう・・・」
何かを決心した様子で、室内でも外さないトレードマークのサングラスを外すと、後ろに放り投げる。
カシャンという軽い音に、うとうとしていたクリスが目を覚ます。
「さぁメインディッシュだ。そのまま力を抜いておけよ、俺のクリスよ」
クリスが尋常ではない気配を感じその視線を仰ぐと、好物を目の前にした子供のように爛々と瞳を輝かせるウェスカーが居た。
何がどうなっているのか分からず焦ったクリスは身を起こそうとして必死に尋ねる。
「な、なにをしようっていうんだウェスカー!や、やめろタオルを外すな!!」
そんなクリスの抵抗も、同等の肉体を持つウェスカーに馬乗りにされていては抵抗も空しい。
「落ち着けクリス!俺の言うとおりにすれば間違いないんだ!ケツの筋肉をきっちりとほぐしておかなくては後で困るのはお前だぞ!」
「な・・・!?何がしたいんだー!!」
生まれたままの姿でうつ伏せに押さえつけられながらも必死に抵抗するクリスを、器用に両足で捌くウェスカー。
いつの間にかウェスカーも上半身を晒していた。
クリスに身動きを取らせず上手く彼の上で向きを変える。
いまウェスカーの眼下には、しっかりと鍛え上げられ異様に力が入ってビルドアップしているクリスのヒップが躍動していた。
「ふふ、夢にまで見たお前のケツだ。十分堪能させてもらおう!!」
そう叫ぶと、おもむろに両てのひらをピンクに上気したクリスのヒップに当てがう。
言葉とは裏腹な非常に優しい手つきだった。
「おいウェスカー!ヤメロ!冗談だろ?そんなにやさしくケツを揉まないでくれ!!た、頼むから、俺が悪かったよ!!」
別にクリスが悪いわけでは無いので謝る必要はまったく無いのだが、パニックに陥っているクリスは気づかない。
それでも必死の抵抗を続ける。
「冗談?馬鹿を言うな。俺がこんな事を冗談ですると思うのか?」
ウェスカーは何を言っているんだ?と言いたげにクリスを振り返る。
「まだ分かっておらんようだな。貴様も警官だろう?上司の命令には逆らうな」
映画やドラマなどでよくあるようなごく普通の台詞に聞こえるが、クリスのヒップに激しく頬擦りしながら言っていてはまったく説得力も威厳も感じられない。
「あああぁぁぁ止めてくれぇぇぇ!」
クリスの絶叫がシャワールームに響く。
「さぁ頂こうか。お前の・・・」
「バカいってんじゃねぇぇぇぇ!!!」
叫びはすれども体はまったく動かせない。
どうしようもない絶望がクリスを包み始めた時だった!
「クリスか?何をやってるんだ早くしろ。今日は一緒に射撃に行く予定だったでは無いか」
( あの声はバリー!あぁ神よ!ありがとう!!! )
「助けてくれバリー!ヤバいんだ!!」
ただならぬクリスの声色に、ヒゲバリーも多少焦ったらしい。
「どうしたんだクリス!」
声の主バリーがシャワールームへ駆け込んだ時、先程のおぞましい光景はキレイさっぱり納まっていた。
「あぁウェスカー。アンタも居たのか・・・クリスがどうかしたのか?」
鏡越しにウェスカーと目が合い、バリーは安心してクリスの様子を尋ねた。
「バリーか、あいつシャワーを浴びながら上せてたんで何とか引き上げてそこに放り出しておいたんだ。どうも変な夢でも見たんだろう」
先程の行為など何も無かったかのように髭を剃りながらウェスカーが答える。
クリスはあっけに取られて口をパクパクしている。
「なんだ寝ぼけてただけか。騒がせやがって。早くその粗末なモノをしまえ。見苦しくてかなわん」
ウェスカーはすっかり上着も着て、サングラスをも装着していたが、クリスはまだ真っ裸のままであった。
バリーに先程の事を話そうと口を開きかけた瞬間、ウェスカーからハンドシグナルが。
( 今のは冗談だが・・・話せば殺す )
ウェスカーのスキルを十分知っていたクリスは、結局無理矢理ウェスカーの冗談だと思い込む事にして兎に角この場を逃れる方を優先させた。
「う・・・あぁそうか寝ぼけてたのか・・・悪かったなウェスカー・・・じゃあ俺はもう行くよ」
そそくさと身支度を整えるとバリーと共に室を出る。
クリスの出際にウェスカーが声を掛ける。
「あぁ。またな。」
この後しばらくクリスがウェスカーを避けまくった事は言うまでも無い・・・
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「ぐはぁ!!」
すさまじくおぞましい思い出を浮かべてしまったクリスは一言そう吐き出すと、こめかみに脂汗を浮かせて現実に戻った。
「ヤバすぎるモノを思い出してしまった・・・」
ゲンナリしながらも何とか目的を思い出してさっさと買い物を済ませる事にした。
「い、一刻も早く買い物なんざ終らせて愛しいクレアの愛でなければ!!!」
またも微妙な台詞を吐きつつ、レジへと向かった・・・
- セメントの粉
- 鉄板
- 各種弾丸